院長です

心房細動(しんぼうさいどう)はご存じでしょうか。心臓が不規則に拍動する病気で、高齢者に多くみられます。この不整脈では、心臓の中で血液が固まってしまい(血栓を作ります)、それが脳や全身に飛び散ってしまい、脳梗塞や全身塞栓症を引き起こすリスクがあるため、血液をサラサラにする抗凝固薬を内服する必要があるのですが、高齢者への抗凝固療法は出血の合併症への懸念から必ずしも全員には実施されていません。今回その問題に一石を投じる大変重要な研究結果が日本から、しかも九州から発表され、世界最高峰の医学雑誌であるThe New England Journal of Medicine (NEJM)に掲載されました。筆頭著者は済生会熊本病院の循環器内科の奥村謙先生です。

「ELDERCARE-AF試験;超高齢心房細動患者における低用量エドキサバンの有用性と安全性の検討」という論文ですが、現在すでに日本で使用されている抗凝固薬の一つであるエドキサバンという薬を少量使用することで脳卒中や全身塞栓症の発症率を抑制することができたというものです(エドキサバン群2.3%に対し、プラセボ群6.7%)。この研究方法は難しい言い方では「前向きの無作為化二重盲検試験」であり、最近コロナのことでワイドショーなどでもよく耳にする「エビデンスがあるのかないのか」でいうと、大変エビデンスレベルの高い臨床試験といえるものです。

まだこの投与量は日本では保険適応にはなっていないのですが、すでに使用されている薬ですので、今後保険適応になれば心房細動患者さんには大変な恩恵となるものと期待されます。

このような重要な研究成果が九州から世界に発信されたことは大変すばらしいことですし、コロナ禍で暗い話が多いなかで、また新型コロナ情報にばかり目も耳も奪われている間にも、そのほかの病気についても日本からすごい成果が発表されていたのでご報告させてもらいました。